「ASDなそら」管理人のそらです。
ASD(自閉スペクトラム症)当事者の視点で、
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「自分は会話が苦手だ」と感じている方、
自閉スペクトラム症(ASD)と診断されている方の多くが、
共通してこの悩みを抱えているのではないでしょうか。
これはけっして珍しいことではありません。
むしろ、とても自然なことです。私自身もそうですし、

- さっきはうまく話せなかった…
- 何をどう伝えたらいいのかわからない…
そう感じる場面は日常茶飯事です。
特に、ASDの特性を持つ方にとって
「なんとなく苦手」「説明できないけど怖い」といった曖昧な感覚で
会話から距離を置いてしまうことはよくあります。
これは「避けている」わけではなく、
「うまくできない」ことに対する防衛反応のようなもの。
まずは、その気持ちを否定せずに受け入れることがとても大切です。

それでも私は「どうして?」を考えてしまう
私自身の傾向として、

- なんで、うまくいかないのだろう?
- どうして、会話はこんなにも難しいのだろう?
そう考えるクセがあります。
いわゆる5W1H──
What(なに), When(いつ) , Where(どこ),
Who(だれ), Why(なぜ), How(どのように)
義務教育で習ったこの疑問詞たちは、
私にとって「納得するためのツール」です。
特に「Why(なぜ)」は頻繁に頭に浮かびます。
納得できないと前に進めないタイプなのです。
この「なぜ会話が難しいのか?」という問いに対して、
私なりの仮説を立て、分析を続けてきました。

そしてようやく出てきた一つの答えがあります。
コミュニケーションは「すべて」である
「コミュニケーションってなんですか?」と聞かれて、
即答できる人は少ないでしょう。
それほど曖昧で、でも大切なもの。私は、こう定義しています。
「コミュニケーションはすべてである」
どういうことかと言うと、
「言葉だけで成り立っているわけではない」という意味です。
実は、私たちが日常で行っている会話には、
言葉以外の要素がたくさん詰まっています。
たとえば、
- 表情
- 視線の動き
- 声のトーンや大きさ
- 身体の向きや動き
- 間(ま)
- 服装や髪型
- 無言の時間
これらは全て「非言語コミュニケーション」と呼ばれるもので、
言葉と同じくらい重要な役割を担っています。
つまり、コミュニケーションとは「言葉(言語)」+「非言語」の総合芸術なのです。


会話をひとつずつ分解してみる
では、実際の会話を分解してみましょう。
厚生労働省が公開している発達障害者支援の教材(リンクはこちら)の中で、
興味深い例が紹介されています。
そのなかの第2回プログラム(7〜10ページ)、
「コミュニケーションについて」を参照してください。
学校の朝──
A:「おはよう!」(明るい声でBにあいさつ)
B:無言(あいさつには気づいているが、返事をしない)
このやり取りだけを見ても、
実に多くの要素が絡んでいます。
- Aが声をかけた = 能動的な行動
- Bは反応しなかった = 何か事情がある
- 実はBは家で家族とケンカしていた = 気分が落ち込んでいる
- 無視しているわけではないが、反応できなかった
そして、続きがあります。
その後──
AはBに話しかけようとしたが、
Bは机にうつ伏せになっていた。
Aは心配したが、Bの様子を見てそっとしておくことを選んだ。
このやり取りには、
言葉にならない気遣いや、内面での葛藤が潜んでいます。
- Aは「『声をかける』べきか『そっとしておく』べきか」考えていた
- Bの普段との違い(普段は友達と話している)に気づいた
- Aは結局、声をかけずに見守るという選択をした
これほどまでに多くの判断や気遣いが
「たった数分」の間に行われているのです。
これをすべて無意識で処理できるのが、いわゆる「健常者」とされる人たち。
でも、ASD当事者にとっては、こうした無意識の処理が苦手なことがあります。
脳の処理速度や情報の受け取り方が違うのです。
「気づけない」ことに自分を責めないで
私もそうですが
「相手の気持ちに気づけない」「空気が読めない」
そう言われることはつらいものです。
でも、これには理由があります。
それは「できない」のではなく「脳の処理の仕方が違う」からです。

自分を責める必要はありません。
責任感が強い人ほど「なんでできないんだろう」「みんなはできているのに」
そう感じてしまいがちです。
でも「脳の使い方が違う」のであって、「劣っている」わけではありません。
むしろ、私たちは別の場面で高い能力を発揮します。
- 興味のある分野では集中力がすごい
- 細かいところまでよく気づく
- 物事を深く考える
- 感覚が鋭い
そういった強みは、コミュニケーションの形を変えることで活かせます。
苦手を無理に克服しなくてもいい
無理に「話せるようにならなきゃ」「普通にならなきゃ」
そう思わないでください。
むしろ、自分に合った方法でやりとりする工夫をしてみましょう。
例えば、
- メールやチャットなど文字でのやりとりを中心にする
- あらかじめ言いたいことを紙に書いてから話す
- 定型の挨拶パターンを作っておく
- 表情の読み取りが難しいと感じたら、そう伝えておく
こうした方法を用いるだけで、
コミュニケーションの負担はぐっと軽くなります。
会話が苦手でも、文字では伝えやすいという方も多いはずです。
むしろ、その方が誤解も少なくて済むというケースもあります。

一人で抱え込まなくていい
どうしても解決が難しい、
工夫しても苦しいという場合は、専門家に頼ってください。
- カウンセラー
- 発達障害支援センター
- 精神科医 など
今はさまざまな支援があります。
大切なのは「合う人に出会うこと」です。
最初に会った人が合わないと感じたら、遠慮なく変えてOKです。
こちらが困っているときに、その負担まで背負う必要はありません。

「合う人との出会い方」はこちらをどうぞ⬇️
最後に─自分を理解することから始めよう
コミュニケーションが苦手というのは、
ASD当事者にとってはごく自然なことです。
そして「すべて」を含むこの行為をうまくこなすのは、
本当に大変なことです。
でも、それは「自分が悪い」からではありません。
ただ、やり方が合っていないだけ。
そして、自分なりのスタイルを見つければ、人と関わっていくことはできます。
無理をしすぎず、時にはメモに頼ってもいい。
文字に置き換えてもいい。
誰かに相談してもいい。
一歩ずつ、自分の方法で「伝え方」を見つけていきましょう。
あなたには、あなたにしかできない関わり方があります。
そして、それはきっと、誰かの支えにもなります。

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